京の庭を歩く-2 桂離宮

桂離宮は、八条宮初代智仁親王により、宮家の別荘として創建され、二代智忠親王のよりほぼ現在の姿に整えられたものであるが、創建以来火災にあうこともなかったため、ほとんど完全に創建当時の姿を今日に伝えている。

見学予約時刻の午前11時、宮内庁の説明員に案内されて、20名ほどの見学者とともに庭園内に入る。
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| 園路の紅葉し始めた樹木 |
紅葉山から外腰掛を過ぎ、松琴亭に向かう。 写真撮影は決められた場所でしか許可されないので、少し残念だったが、その分しっかり鑑賞することに専念した。
良く手入れされた園内の樹木は雨上がりということもあって、しっとりとした空気の中で静かに息づいていて、歩を進めるにつれ心が安らいでゆく。 ほどなく「これぞ日本庭園。」という感慨に打たれる。 園内の樹木は既に紅葉し始めていて、飛び石伝いに園路を歩く私たちの目は、ついそちらに奪われがちになり、そこへ説明員の「立ち止まらないで!」「足元に気をつけて!」という声が飛ぶ。
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| 松琴亭に至る石橋から天橋立方向を見る |
石橋を渡って松琴亭に至るが、石橋を過ぎたあたりに池に降りて手を洗う、「流れの蹲」があった。 この日は藻の発生が激しく池の水はあまり綺麗ではなかったが、清水の流れ込む池であれば、より自然な蹲として茶人に好まれたことだろう。
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| 石橋横の「流れの蹲」 |
松琴亭は、茅葺入母屋づくりの茶室である。 手前の石橋を渡ると正面の屋根の妻に、後陽成天皇の宸筆といわれる「松琴」の扁額が見える。 一の間の床や襖の青と白の市松文様は藍の青が色あせて白っぽくなっているが、大胆かつ斬新なデザインは古さを感じさせない。 この優れたデザイン感覚は北側廊下の竈(くど)構えにも見受けられる。
松琴亭の西側には池越しに古書院と月波楼が望める。
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| 松琴亭から古書院、月波楼を望む |

松琴亭の南にある土橋を渡ると賞花亭に至る。 夏用の小亭としてつくられた茅葺切妻屋根の峠の茶屋風のこの茶室は苑内でもっとも高い場所にある。 亭内の竹の連子窓や天上の格子がデザイン的にも機能的にも優れている。 夏には苑内の樹木の間を通り抜けてきた涼風が吹き渡ることだろう。

後水尾天皇の宸筆といわれる扁額の掛かる園林堂を過ぎて土橋を渡ると、古書院を右手に見ながら、笑意軒に至る。
笑意軒は茅葺寄棟つくりの田舎家風の茶室である。 曼殊院良恕法親王の筆になる「笑意軒」の扁額が掛かる口の間の腰高障子の上には六つの丸い下地窓があるが、下地の組み合わせが変えてあって、デザインが微妙に異なっていて面白い。

笑意軒から北へ戻って、古書院へ向かう。 苔庭の飛び石の形が自由で見るものの気持ちを伸びやかにしてくれる。 古書院二の間、正面の広縁から竹簀子の月見台が設えられている。 月見台からは、美しい汀線に縁取られた池と中島、手入れの行き届いた樹木が見える。 優雅な「月見の宴」が催されたことは、想像に難くない。
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| 古書院の飛び石 |
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| 二の間の月見台 |
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| 月見台から池、中島を見る |

古書院の北の高みに「月波楼」と呼ばれる茶亭がある。 正面には開放的な広い土間があり、土間の右手の部屋からは池が見渡せ、天野橋立や松琴亭、中島などが見える。 一方土間の奥の座敷からは池は見えず、生垣の刈り込みが見える趣向である。
明るい室内は竹を使った意匠が施され、化粧屋根裏は竹の垂木が船底型に組んであり、それに合わせて欄間にも竹の格子が組まれていて、全体としてすっきりとした印象を与えている。
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| 月波の扁額 |
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| 竹の装飾が見事な天井、欄間、襖にはモミジの文様 |
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| 天橋立、松琴亭、中島などが見える中の間からの眺め |
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| 生垣と紅葉山が見える一の間からの眺め |

月波楼から中門に向かうと古書院の玄関である「御輿寄」が見えてくる。 スギゴケで覆われた前庭には、中門から敷き詰められた切石の「真の延べ段」が「御輿寄」へと続き、4段の石段を上がったところには、かまぼこ型の大きな一枚石の沓脱「六つの沓脱」がある。 毅然とした雰囲気の延べ段と石段の後のこの沓脱石の上面の柔らかな曲線は客人をもてなそうとする主の優しい気持ちを無言のうちに表していて、極めて効果的な心理的演出になっている。
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| 「御輿寄」と「六つの沓脱」、「真の延べ段」 |
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| 形も石の種類も自由な飛び石 |
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| 中門とクロモジの枝を使った無双垣(穂垣) |

中門を出ると端正な穂垣が続き、その先には東西に道が延びている。 東へ延びる道は池に向かっているが、その先には形の良い松が植えられていて、視線を遮っている。 「障景」という日本庭園の技法のひとつで、見るものの期待を先へつなぐ効果を狙っている。
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| 障景の松と見事な砂利敷きの園路 |
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| 桂離宮外周の桂垣(穂垣) |
桂離宮は日本庭園のあらゆる技法が駆使された庭と言っても過言でないほどの技巧的な庭であり、同時に苑内の建物にも斬新で独創性に溢れた意匠を凝らした庭である。 しかも苑内では自然が息づいており、日々成長し変化しながらその美しさを維持、発展させている。 そこには人の心を平穏にさせる自然な風が吹き渡り、自然な水の流れや水音や水の煌きがあり、また石や植物や建物には時の流れがある。 まさにいのちを持った庭なのである。
この庭の維持、管理には膨大な費用が投じられていることは容易に想像できるが、桂離宮は、世界に誇れるもっとも優れた日本庭園の一つであると思うし、その費用を惜しんではならないとも思う。
('07.11.01)

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