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「マツボックリが笑う日」−ダニエル・ブライヤン著−翔泳社

 原題を「Foxgloves & Hedgehog Days(キツネノテブクロと針ねずみの日々)」 というこの本は、フランスとイギリスで育ち、現在はオランダ住む外洋客船の航海士で、一年の半分は七つの海で波を枕に暮らすという随筆家ダニエル・ブライヤンの著作である。

 英米で権威のある園芸雑誌「Country Living」誌に数年にわたって掲載されたエッセイを元にまとめられたというこの本は、常識的な園芸書とはまったく趣を異にしている。

ベルギー国境近くの辺鄙な村にあるという彼の小さな田舎家の庭はというと、一般的な園芸愛好家の基準では美しいとは言えず、むしろ草ぼうぼうで荒れ放題といった風情である。
しかし彼は船を下りているときは、そのほとんどの時間をこの庭で過ごし、ひたすら五感を研ぎ澄ませて、自然の秘めたる奇蹟の数々に遭遇し、そして驚嘆する。

夜の静寂の中に佇み、肩を寄せ合いながらそっと開花する待宵草の幽(かそ)けきささやきとその蜜を求めて飛び交う蛾とが繰り広げる幻想的な輪舞に魂を奪われ、秋日和の松林を歩き、マツボックリが笑い交わしながら鱗片を開く声命の歌として聞く。

 自然の中に身をおき、ひたすら五感を研ぎ澄ますと、そこには読み尽くせないほどの多くのドラマが繰り広げられている。 僅かな動きや音もその気になって凝視すれば、動きは目に見え、耳を澄ませば音も聞こえる。 自然の世界はまったく驚くほど饒舌なのだ。 自然の中での暮らすことの豊かさをいささかなりとも知る私は、彼の自然への感応ぶりにおおいに共感を覚えた。

 彼は商業的に作り出された田舎趣味や自然の本質を理解しない園芸愛好家を嗤う。 この本の中の数々の田園生活のエピソードには、彼の鋭い人間観察と辛らつな文明批評があり、なかなか痛快である。 彼の言う「グリーンな暮らし」は21世紀の「キーワード」か。 

 自然が大好きな人もそうでない人も、一読すると自然への接し方が変わる好著。(01.03.13)


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